12月16日、勤医協中央病院総合診療・血液病センター副センター長の川口篤也医師を招き、講演会が開催されました(主催、ジェネラリスト・カレッジ)。人生の終わりを迎えるにあたり、患者さん・家族、医療者が事前に話し合い、価値を共有する意味について考えました。
人生の最終段階の方針を決める際に、患者さんご本人の意向がわからず、家族の意向だけが優先されるということがあります。家族もご本人と話していないので困惑しています。
人生の最後をどう迎えるのかをなぜ話しあわないのか、常々疑問でした。医療者として、自分は事前に適切な関わりができていたのか、いろいろと考えたりしていました。
よく話す事例ですが、85歳女性で、認知症終末期と思われる方が、食事をとれなくなったらどうするか、家族は話し合っていませんでした。娘さんの献身的な介護で過ごしてきましたが、嚥下機能がかなり厳しく肺炎になりました。
入院先の医師の勧めるまま、胃ろうをつくり、施設で2年生活してきました。その間、本人の意思とは関係なく、栄養剤が胃の中に入っていくのを見て、「私の決断は本当に母親のためになったのか。意思表示ができたときに聞いていれば、こんなに悩まずに済んだかもしれない。10年経った今でも悶々とします」と私に話してくれました。
人生の終わりのことを事前に話し合っておいた方が良いと感じているのにできなかった。話しずらい理由があると思うのです。
人は100%死ぬのに、なぜ話し合っていないのか、と言われても困りますよね。誰でも死のことを考えたくないものです。 しかし死に方を考えるというのは、死ぬまでどう生きるかを考えることです。死の瞬間というのは自分ではなかなか選べません。どう生きたいかを考えることは、自分で決めたいと思いませんか。
事前指示(アドバンス・ディレクティブ)というのを聞いたことがありますか。大きく分けて2つあり、「人工呼吸器をつけますか、点滴しますか」という具体的な内容指示と、「自分が意思表示できなくなったらこの人に聞いてくれ」という代理人指名です。事前指示の利点は医師と代理決定者のコミュニケーション改善です。
しかし事前指示書を埋めることが目的になってはいけません。いろいろ考える一つのきっかけにはなると思います。人と話すことで自分の気持ちにあらためて気づいたり、意見が変わることもあります。
特定の医療行為をするかどうかよりも、治療の目標や価値観、考え方などに焦点をあてるのがアドバンス・ケア・プランニングです。事前にケアプランを立てましょうということです。
事前指示はその場1回、点ですが、プランニングなので常に線として何回も何回も話していきます。書き残すものは覚書でいいのです。走り書きで何度も書き換えたり付け足したりしていくようなもので構いません。その人らしく最後を迎えるため、医療者と価値観を共有するプロセスなのです。
「情報共有―合意モデル」というのがあります。医療者は医学的なことを患者さんや家族に説明します。患者さん・家族は自分の人生計画、価値観、死生観を医療者に「物語的」に語り、対話を通じて情報を共有します。両者が「なるほど」と最善の判断をして合意します。これが本来のインフォームド・コンセントです。
それでも人は悩みます。医者でもよくわからないことはたくさんありますが、そこに真摯に向き合うということが大事です。答えなくても応えることが大事なのです。嬉しいことも悲しいことも、共有してくれると感じられる、そういう医療者になりたいですね。関係者みんなで悩んで悩んで考える、意思決定のプロセスが倫理的適切さを担保すると思います。
昨年は、戦後70年、昭和90年でした。復員した若者の子どもの世代の人口は約800万人と言われ、スイスやオーストリアなどの人口に匹敵します。
今後10年でその数の方々が後期高齢者の仲間入りをしていくことになります。つまり、「昭和100年問題」というわけです。では、後期高齢者が増えることの何が問題になってくるでしょうか?
認知症の問題、虚弱高齢者の問題はマスコミでもよく取り上げられるようになりましたが、今日、お話ししたいのは、それまで健康だった方が、突然、要介護者となってしまう「脳卒中」についてです。というのは、高齢化に伴い罹患者の増加が確実だからです。
現存する中国最古の医学書の中に「其有三?而偏中於邪風,則為?仆偏枯矣」(年老い、弱っているところに邪風が片側に当たると、突然倒れ半身不随となる)と書いてあるそうです。この語句から、脳の血管障害のことを「突然、邪風に中る」という意味で、脳卒中と呼ぶようになりました。中風(ちゅうぶ)という言葉をご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、同じ意味です。「撃仆偏枯」(げきふへんこ)とは、突然の片側の顔、腕、脚の麻痺という症状を的確に捉えた言葉です。
では、予防はどうしたらいいでしょうか? 脳卒中を起こしやすくする因子には、次の10個があります。
高血圧、心房細動、喫煙、過度の飲酒、運動不足、肥満、糖尿病、ストレス、不健康な食生活、脂質異常症です。
日常生活では、喫煙、過度の飲酒を控え、バランスの良い食事、適度な運動で適正体重を保つことが大切です。高血圧、心房細動、糖尿病、脂質異常症の発見には特定健康診査を受けることが有効です。
特に、高血圧は最大の危険因子で、日本人は、昔から比べると、塩分摂取量は減っています。しかし、まだ欧米人の倍は摂取しており、まだ減塩の余地があります。一度、稜北クリニックで塩分摂取量の検査を受けてみてください。
いくら気をつけても絶対にならないという病気ではありません。急に腕が上がらなくなる、顔の表情が左右非対称になる、呂律が回らなくなるなどの症状が出た場合、すぐ電話で救急車を呼び、MRIのある病院で脳神経外科医の診察を受けなければなりません。
脳卒中にならなくとも年々脳細胞は減っていくと言われていますが、平均的な脳卒中発作1回で10時間経ってしまうと、36年分の脳細胞が死んでしまうと計算した学者がいます。1分遅れるだけで、3週間分の脳細胞が壊れてしまうことになります。
脳塞栓(心臓などから血の栓が飛んできて塞がる)、脳血栓(動脈硬化で血液が栓をする)、脳出血(高血圧などで血管が破れる)、くも膜下出血(脳動脈瘤が破裂)など、細かく区別し、適切な治療に当たることになります。
塩分を控え、脳卒中かなと思ったら、遠慮せずすぐに救急車を呼ぶことで、死ぬまで元気に過ごせるように、心積もりしておきましょう。
(鍛治友の会の「お料理教室」でつくったレシピです)
(1人分 366kcal)
以上で完成となります。